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ユーザーインタビューとペルソナ作成 人間中心設計のプロセス

ユーザーインタビューとペルソナ作成は、人間中心設計(HCD)の核心です。ISO 9241-210に基づく設計プロセスを、初心者にもわかりやすく解説。質問設計からペルソナの活用法まで、実践的なステップを紹介します。

2025-12-26
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「ユーザーのことは、ユーザーに聞くしかない」——プロダクト開発やサービス設計において、この原則は今や常識となりつつあります。しかし、実際に​ユーザーインタビュー​を行い、そこから​ペルソナ​を作成するプロセスは、想像以上に奥が深いものです。

本記事では、​人間中心設計(Human-Centered Design: HCD)​の国際規格であるISO 9241-210をベースに、ユーザーインタビューの計画・実施方法から、得られたインサイトをペルソナへと昇華させるプロセスまでを体系的に解説します。デザイナーやプロダクトマネージャーはもちろん、「ユーザー理解を深めたい」と考えるすべての方に役立つ内容です。

人間中心設計(HCD)とは何か?

人間中心設計(HCD)とは、製品やシステムの設計プロセス全体を通じて、​ユーザーのニーズ、行動、環境を中心に据える​アプローチです。国際標準化機構(ISO)が定めるISO 9241-210では、HCDの基本原則として以下の4つが挙げられています。

  1. ​ユーザーと利用状況の明確な理解​
  2. ​ユーザーの要求事項に基づく設計​
  3. ​ユーザーを巻き込んだ反復的な評価​
  4. ​ユーザー体験全体を考慮した設計​

これらの原則を実践するための最初の一歩が、​ユーザーインタビュー​です。そして、インタビューから得られた知見を設計チーム全体で共有・活用するための強力なツールが​ペルソナ​なのです。

ユーザーインタビューとは?その目的と価値

ユーザーインタビューの定義

ユーザーインタビューとは、​1対1の対話形式で、ユーザーの経験、行動、ニーズ、課題を深く理解するためのUXリサーチ手法​です。Nielsen Norman Groupの定義によれば、ユーザーインタビューは「ユーザーが誰であり、彼らの経験はどのようなものか、そして何を必要とし、価値とし、望んでいるかを学ぶための手法」とされています。

なぜアンケートではなくインタビューなのか?

アンケート調査は多くの人から効率的にデータを収集できますが、​「なぜそう思うのか」という深層の動機​を探るには限界があります。一方、インタビューでは対話を通じて以下のことが可能になります。

  • ​予想外のインサイトの発見:​ 用意した質問の枠を超えて、新たな発見が生まれる
  • ​文脈の理解:​ 数字だけでは見えない、行動の背景や環境を把握できる
  • ​感情の把握:​ ユーザーの不満や喜びといった感情的な側面を直接感じ取れる

ユーザーインタビューの活用シーン

ユーザーインタビューは、プロジェクトのさまざまなフェーズで活用できます。

フェーズ目的得られるもの
発見・探索期ユーザーの課題や潜在ニーズを理解する問題定義、機会領域の特定
設計・開発期アイデアやプロトタイプへのフィードバックを得る改善点、優先順位の判断材料
リリース後実際の利用状況と満足度を確認する継続的な改善のためのインサイト

ユーザーインタビューの実践ステップ

ステップ1:目的と仮説を明確にする

インタビューを始める前に、​何を知りたいのか​を明確に定義します。漠然と「ユーザーのことを知りたい」では、焦点がぼやけてしまいます。

​💡 良い目的設定の例​

  • 「なぜ既存ユーザーの30%が2週間以内に離脱するのかを理解する」
  • 「購入を検討しながら最終的に離脱したユーザーの障壁を特定する」

ステップ2:適切な参加者をリクルーティングする

インタビューの質は、​誰に話を聞くか​で大きく左右されます。

  • ​ターゲットユーザー像を定義する:​ 年齢、職業、利用経験などの条件を設定
  • ​多様性を確保する:​ 異なる背景を持つ5〜8名程度が一般的な目安
  • ​極端なユーザーも含める:​ ヘビーユーザーと初心者の両方から学べることは異なる

ステップ3:質問を設計する

ユーザーインタビューで最も重要なのが、​オープンエンドな質問​を中心に据えることです。

質問タイプ特徴
​オープンエンド(推奨)​「〇〇についてどのように感じていますか?」深い洞察が得られる
​クローズドエンド(補助的に)​「週に何回くらい使いますか?」具体的な事実を確認できる

​避けるべき質問例:​

  • ​誘導的な質問:​ 「この機能は便利だと思いませんか?」
  • ​仮定の質問:​ 「もしこんな機能があったら使いますか?」(実際の行動とは異なることが多い)

ステップ4:インタビューを実施する

実際のインタビューでは、以下のポイントを意識します。

  1. ​ラポール(信頼関係)を築く:​ 最初の数分で参加者がリラックスできる雰囲気を作る
  2. ​積極的に傾聴する:​ 話を遮らず、相槌や沈黙を効果的に使う
  3. ​深掘りする:​ 「それはなぜですか?」「具体的に教えてください」と掘り下げる
  4. ​記録する:​ 許可を得て録音・録画し、後で詳細な分析ができるようにする

​⚠️ 注意点​

インタビュアーの役割は「正解を確認すること」ではなく、「予想外の発見を受け入れること」です。自分の仮説を証明しようとするバイアスに注意しましょう。

ステップ5:データを分析・統合する

インタビュー終了後、収集したデータを整理し、パターンを見つけ出します。

  • ​文字起こし:​ 録音データを文字に起こし、詳細な分析が可能な状態にする
  • ​親和図法(Affinity Diagram):​ 発言を付箋などに書き出し、類似するものをグルーピングする
  • ​テーマの抽出:​ グループから共通するテーマやインサイトを導き出す

ペルソナとは何か?その役割と効果

ペルソナの定義

ペルソナとは、​ユーザーリサーチから得られたデータに基づいて作成された、架空の代表的ユーザー像​です。名前、顔写真、背景、目標、課題などを持つ「人格」として描かれます。

Nielsen Norman Groupは、ペルソナを「ユーザーグループを記憶に残りやすく、手に取るように感じられるものにする」ツールと説明しています。抽象的な「ユーザー」という概念に、具体的な顔と物語を与えるのがペルソナの役割です。

なぜペルソナが必要なのか?

ペルソナには、以下のような効果があります。

  1. ​共感の促進:​ 「30代女性」ではなく「田中真由美さん(32歳・共働きで2歳の子どもを育てる)」と呼ぶことで、チーム全員がユーザーに感情移入できる
  2. ​意思決定の指針:​ 「真由美さんならこの機能を使うだろうか?」という問いが、機能の優先順位づけに役立つ
  3. ​ステークホルダー間の共通言語:​ デザイナー、エンジニア、経営層が同じ「ユーザー像」を共有できる
  4. ​自己参照設計の防止:​ 「自分だったらこう使う」という主観を排除し、実際のユーザーに基づいた判断ができる

ペルソナ作成の実践ステップ

ステップ1:リサーチデータを整理する

ペルソナは​必ずリサーチデータに基づいて​作成します。想像やステレオタイプに基づいたペルソナは、むしろ害になることがあります。

ユーザーインタビューから抽出したデータを、以下の観点で整理します。

  • ​行動パターン:​ ユーザーは普段どのような行動を取っているか
  • ​目標(ゴール):​ 何を達成しようとしているか
  • ​課題(ペインポイント):​ 何に困っているか、何がフラストレーションになっているか
  • ​動機・価値観:​ 何を重視し、何に価値を感じているか

ステップ2:ユーザーをセグメント化する

リサーチから見えてきた​行動パターンや目標の違い​に基づいて、ユーザーをいくつかのグループに分類します。

​💡 ポイント​

セグメント化の軸は「年齢」や「性別」といったデモグラフィック情報ではなく、​行動や目標の違い​に基づくべきです。同じ30代男性でも、利用目的が異なれば別のペルソナとして扱います。

ステップ3:ペルソナを具体化する

各セグメントに対して、1つのペルソナを作成します。一般的なペルソナには以下の要素が含まれます。

要素内容
​名前・写真​記憶に残りやすくするための人格化要素
​基本属性​年齢、職業、家族構成、居住地など
​背景・ストーリー​どのような日常を送っているか
​目標(ゴール)​何を達成したいと考えているか
​課題・フラストレーション​現状で困っていること
​行動パターン​製品・サービスをどのように利用するか
​代表的な発言(引用)​インタビューからの実際の言葉

ステップ4:ペルソナを検証・共有する

作成したペルソナは、チーム内で共有し、フィードバックを得て磨き上げます。

  • ​リサーチデータとの整合性を確認する​
  • ​チームメンバーが「このペルソナは実在しそうだ」と感じられるか確認する​
  • ​壁に貼る、ミーティングで参照するなど、日常的に目に触れる形で共有する​

ペルソナ活用のベストプラクティス

ペルソナは「生き物」として扱う

ペルソナは一度作ったら終わりではありません。新たなリサーチデータが得られたら更新し、プロジェクトの進行に合わせて進化させていくものです。

数は絞る

効果的なペルソナは、​3〜5個程度​が適切です。多すぎると焦点がぼやけ、チームがどのペルソナを優先すべきか迷ってしまいます。​プライマリペルソナ(最優先のターゲット)​を1つ設定し、それを中心に設計を進めることが重要です。

「〇〇さんならどう思う?」を口癖にする

ペルソナの真価は、​意思決定の場面で参照される​ことで発揮されます。機能の優先順位、UIの選択、コピーライティングなど、あらゆる場面で「このペルソナならどう感じるか?」と問いかける習慣をチームに根付かせましょう。

よくある失敗とその回避策

失敗1:リサーチなしでペルソナを作る

想像やステレオタイプだけで作られたペルソナは、実際のユーザーとかけ離れた存在になりがちです。

​回避策:​ 必ず5名以上のユーザーインタビューを実施し、その知見をベースにペルソナを構築する。

失敗2:作っただけで使わない

せっかく作ったペルソナがファイルの奥底に眠っていては意味がありません。

​回避策:​ ペルソナを物理的に可視化し(ポスターにして壁に貼るなど)、会議の冒頭で必ず参照する習慣を作る。

失敗3:ペルソナを「マーケティングターゲット」と混同する

ペルソナはマーケティングのためのターゲット像ではなく、​設計のためのユーザー理解ツール​です。

​回避策:​ 「このペルソナに売りたい」ではなく「このペルソナの課題を解決したい」という視点を持つ。

まとめ:ユーザー理解が良いデザインを生む

ユーザーインタビューとペルソナ作成は、人間中心設計の根幹をなすプロセスです。その本質は、​「私たちはユーザーではない」という謙虚さ​から始まります。

  • ​ユーザーインタビュー​で、ユーザーの声に直接耳を傾ける
  • ​ペルソナ​で、その知見をチーム全体で共有可能な形に変換する
  • ​日々の意思決定​で、ペルソナを参照しながら設計を進める

このサイクルを回し続けることで、真にユーザーに寄り添った製品・サービスを生み出すことができます。

「ユーザーのことは、ユーザーに聞くしかない」——この原則を胸に、まずは身近なユーザーへのインタビューから始めてみてはいかがでしょうか。