ユーザーインタビューとペルソナ作成 人間中心設計のプロセス
ユーザーインタビューとペルソナ作成は、人間中心設計(HCD)の核心です。ISO 9241-210に基づく設計プロセスを、初心者にもわかりやすく解説。質問設計からペルソナの活用法まで、実践的なステップを紹介します。
ユーザーインタビューとペルソナ作成は、人間中心設計(HCD)の核心です。ISO 9241-210に基づく設計プロセスを、初心者にもわかりやすく解説。質問設計からペルソナの活用法まで、実践的なステップを紹介します。
「ユーザーのことは、ユーザーに聞くしかない」——プロダクト開発やサービス設計において、この原則は今や常識となりつつあります。しかし、実際にユーザーインタビューを行い、そこからペルソナを作成するプロセスは、想像以上に奥が深いものです。
本記事では、人間中心設計(Human-Centered Design: HCD)の国際規格であるISO 9241-210をベースに、ユーザーインタビューの計画・実施方法から、得られたインサイトをペルソナへと昇華させるプロセスまでを体系的に解説します。デザイナーやプロダクトマネージャーはもちろん、「ユーザー理解を深めたい」と考えるすべての方に役立つ内容です。
人間中心設計(HCD)とは、製品やシステムの設計プロセス全体を通じて、ユーザーのニーズ、行動、環境を中心に据えるアプローチです。国際標準化機構(ISO)が定めるISO 9241-210では、HCDの基本原則として以下の4つが挙げられています。
これらの原則を実践するための最初の一歩が、ユーザーインタビューです。そして、インタビューから得られた知見を設計チーム全体で共有・活用するための強力なツールがペルソナなのです。
ユーザーインタビューとは、1対1の対話形式で、ユーザーの経験、行動、ニーズ、課題を深く理解するためのUXリサーチ手法です。Nielsen Norman Groupの定義によれば、ユーザーインタビューは「ユーザーが誰であり、彼らの経験はどのようなものか、そして何を必要とし、価値とし、望んでいるかを学ぶための手法」とされています。
アンケート調査は多くの人から効率的にデータを収集できますが、「なぜそう思うのか」という深層の動機を探るには限界があります。一方、インタビューでは対話を通じて以下のことが可能になります。
ユーザーインタビューは、プロジェクトのさまざまなフェーズで活用できます。
| フェーズ | 目的 | 得られるもの |
|---|---|---|
| 発見・探索期 | ユーザーの課題や潜在ニーズを理解する | 問題定義、機会領域の特定 |
| 設計・開発期 | アイデアやプロトタイプへのフィードバックを得る | 改善点、優先順位の判断材料 |
| リリース後 | 実際の利用状況と満足度を確認する | 継続的な改善のためのインサイト |
インタビューを始める前に、何を知りたいのかを明確に定義します。漠然と「ユーザーのことを知りたい」では、焦点がぼやけてしまいます。
💡 良い目的設定の例
インタビューの質は、誰に話を聞くかで大きく左右されます。
ユーザーインタビューで最も重要なのが、オープンエンドな質問を中心に据えることです。
| 質問タイプ | 例 | 特徴 |
|---|---|---|
| オープンエンド(推奨) | 「〇〇についてどのように感じていますか?」 | 深い洞察が得られる |
| クローズドエンド(補助的に) | 「週に何回くらい使いますか?」 | 具体的な事実を確認できる |
避けるべき質問例:
実際のインタビューでは、以下のポイントを意識します。
⚠️ 注意点
インタビュアーの役割は「正解を確認すること」ではなく、「予想外の発見を受け入れること」です。自分の仮説を証明しようとするバイアスに注意しましょう。
インタビュー終了後、収集したデータを整理し、パターンを見つけ出します。
ペルソナとは、ユーザーリサーチから得られたデータに基づいて作成された、架空の代表的ユーザー像です。名前、顔写真、背景、目標、課題などを持つ「人格」として描かれます。
Nielsen Norman Groupは、ペルソナを「ユーザーグループを記憶に残りやすく、手に取るように感じられるものにする」ツールと説明しています。抽象的な「ユーザー」という概念に、具体的な顔と物語を与えるのがペルソナの役割です。
ペルソナには、以下のような効果があります。
ペルソナは必ずリサーチデータに基づいて作成します。想像やステレオタイプに基づいたペルソナは、むしろ害になることがあります。
ユーザーインタビューから抽出したデータを、以下の観点で整理します。
リサーチから見えてきた行動パターンや目標の違いに基づいて、ユーザーをいくつかのグループに分類します。
💡 ポイント
セグメント化の軸は「年齢」や「性別」といったデモグラフィック情報ではなく、行動や目標の違いに基づくべきです。同じ30代男性でも、利用目的が異なれば別のペルソナとして扱います。
各セグメントに対して、1つのペルソナを作成します。一般的なペルソナには以下の要素が含まれます。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 名前・写真 | 記憶に残りやすくするための人格化要素 |
| 基本属性 | 年齢、職業、家族構成、居住地など |
| 背景・ストーリー | どのような日常を送っているか |
| 目標(ゴール) | 何を達成したいと考えているか |
| 課題・フラストレーション | 現状で困っていること |
| 行動パターン | 製品・サービスをどのように利用するか |
| 代表的な発言(引用) | インタビューからの実際の言葉 |
作成したペルソナは、チーム内で共有し、フィードバックを得て磨き上げます。
ペルソナは一度作ったら終わりではありません。新たなリサーチデータが得られたら更新し、プロジェクトの進行に合わせて進化させていくものです。
効果的なペルソナは、3〜5個程度が適切です。多すぎると焦点がぼやけ、チームがどのペルソナを優先すべきか迷ってしまいます。プライマリペルソナ(最優先のターゲット)を1つ設定し、それを中心に設計を進めることが重要です。
ペルソナの真価は、意思決定の場面で参照されることで発揮されます。機能の優先順位、UIの選択、コピーライティングなど、あらゆる場面で「このペルソナならどう感じるか?」と問いかける習慣をチームに根付かせましょう。
想像やステレオタイプだけで作られたペルソナは、実際のユーザーとかけ離れた存在になりがちです。
回避策: 必ず5名以上のユーザーインタビューを実施し、その知見をベースにペルソナを構築する。
せっかく作ったペルソナがファイルの奥底に眠っていては意味がありません。
回避策: ペルソナを物理的に可視化し(ポスターにして壁に貼るなど)、会議の冒頭で必ず参照する習慣を作る。
ペルソナはマーケティングのためのターゲット像ではなく、設計のためのユーザー理解ツールです。
回避策: 「このペルソナに売りたい」ではなく「このペルソナの課題を解決したい」という視点を持つ。
ユーザーインタビューとペルソナ作成は、人間中心設計の根幹をなすプロセスです。その本質は、「私たちはユーザーではない」という謙虚さから始まります。
このサイクルを回し続けることで、真にユーザーに寄り添った製品・サービスを生み出すことができます。
「ユーザーのことは、ユーザーに聞くしかない」——この原則を胸に、まずは身近なユーザーへのインタビューから始めてみてはいかがでしょうか。